朝からスコーン

考えたこと。やってみたこと。やってみたいこと。

「実力」について考える

 

通訳学校の授業は、100%パフォーマンスの場です。何かを教えてもらいにいくのではなく、自分でアウトプットをし、人のアウトプットを聴きながら、少しずつ学んでいく。経験を積んでいく。そんな場です。

パフォーマンスには、2種類あります。①初めて聞く文章を、その場で即座に訳すもの。②宿題として練習を重ねてきた上で、授業でその成果を披露するもの。乱暴に言ってしまえば、①は実力が発揮される場。②は準備にかけた時間が露わになる場。そんなところでしょうか。

ぶっつけ本番と予習可の2種類があると、実力はあるけど予習をしないから①だけ得意な人と、真面目に予習はするけどぶっつけには対処できない②だけ得意な人が出てくるような気がしますよね?

でも実際は違うんです。

①の出来と、②の出来はほとんど比例しているのです。つまり、ぶっつけ本番に強い人は予習もきちんとしてきていますし、予習をロクにしていない人はぶっつけ本番のパフォーマンスもダメダメです。

 

②は、単純に予習にかけた時間が反映されます。音源を何度聞いたか、何度声に出して練習してきたか、どれだけ丁寧に単語を調べてきたか。ただただそれだけのことです。なので、②のパフォーマンスは一見「実力」とは言えないかもしれません。辞書をひいたか。練習をしたか。違いはそれだけなのですから。

でも不思議なことに、②のレベルが高い人は①のレベルも高いのです。②は超手抜きだけど才能があるから①は完璧!そんな人はいないのです。

 

私がこれまで打ち込んだ経験があるものは、2つあります。バイオリンと、英語です。私の中での体験を伴う「実力」という概念は、この2つを通じて醸成されてきました。両者とも、日々の積み重ねが如実に反映されるものです。

 今はもうやめてしまいましたが、バイオリンは本当にいろんなところで弾きました。パート練習で、弦楽四重奏の合わせで、人前で、先輩とふたりで、合奏で、オーケストラで。

「こんなの、あと10回さらえば(練習すれば)弾けるし」「ちょっと今日は眠いから手を抜いてるけど、本気出したら弾けるし」「今週は忙しくてあんま練習してなかったけど、時間あったらもっと弾けてたし」「チェロが(ごめんなさい、例えばです)もっとうまかったら、ちゃんと弾けるし」

何度、何度こんなみっともない言い訳を心の中で呟いたことでしょう。しかし、たとえどれだけ上手に自分を言いくるめたとしても、その時点での私の演奏が周囲にとっては私の全てです。つまり、私の「実力」です。なにより、その1週間で前に進めたかもしれない時間は、決して戻ってはきません。そうして、毎日、毎週、毎年、「実力」を追求し続けた私追求することを放棄した私が、一生分岐を続けていくのでしょう。前者に分岐できたかもしれない時間は、二度と戻ってきません。

 

京大オケ時代は、弦楽器の個人練習場所が共用だったため、みんなの練習量は互いにだいたい把握していました。うまいな、伸びてるなと思う人はずっと練習していましたし、あんまりだな、入団当初からそんなに伸びてないなと思う人はあまり練習していませんでした。結局、かける時間と情熱の問題なのだな。それが京大オケ生活を終えての感想でした。

 

私のなんとなくの実感に、具体的な説明を与えてくれる本がありました。

天才!  成功する人々の法則

天才! 成功する人々の法則

 

 いかにも自己啓発っぽいタイトルですが、内容はかなり独特です。シンプルに言うと、「生まれつきの天才はいない。プロフェッショナルは、1万時間を積み上げることで作られる」。ただそれだけです。

 例として、ある音楽大学での調査が挙げられています。どこの大学もそうであるように、そこには優秀な生徒とそうでない生徒がいます。優秀でない生徒は、「優秀な生徒には才能があるから」、そう言います。しかし彼らの練習時間を調査してみたところ、ある事実が判明しました。トップクラスの学生のバイオリンを手にして以来の練習時間は1万時間に達していたのに対し、優秀でない学生の総練習時間は4000時間を少し上回る程度だったのです。

「練習をせずに天才的才能を発揮する人」も、「いくら練習をしても上達しない人」も、どちらもいなかった。

 これは上でつらつら書いてきた私の実感と完全に合致するものでした。

 

最初の通訳学校の例で言えば、②の予習を毎週きちんとする人は、結局それが積もり積もって①のぶっつけ本番に対処する力になっていくのでしょう。

こういう一点突き詰めが好きな性格から考えても、企業の総合職として何十年も色んな部署をぐるぐるするより、職人っぽく通訳を極めていく方が向いてるんじゃないですかね、スコーンは。

 

先週の授業で冒頭の考えに至ったので、なんだか書きたくなってしまって珍しく1日に2回も更新してみました。あつい~~~~